薬草、毒消し、コンパス、聖水、短刀、針金、酒、タバコ、マッチ、スクロール、水袋、干し肉。
動きを制限しないように選んだ少量のアイテムを腰のポーチや衣服のポケットに放り込む。ダンジョン前に展開されたキャンプのテントに荷物を放り込むと、フリードは黒のマントを羽織り直した。
背の高い木々がまだ高いであろう日の光を遮る。
重い鉄の扉に閉ざされた地下墓地跡の入り口は見舞う者こそ皆無だが命知らずの冒険者達を誘い続ける。
さて、冒険を始めようか。
++++地下墓地跡+++++++++
通路の狭い天井が階段を下る足音を幾重にも反響させた。所々灯りの切れている壁の魔法灯が時折ジジ、と鳴いていやに耳に障る。
魔法灯の恩恵で地下墓地は松明を必要としない程度に明るい。足元に散乱した何者とも取れない骨を踏む度に乾いた音がパキリ、パキリと鳴いた。
ダンジョンの入り口付近には最近起こした焚き火の跡や置き放した簡易テントが幾つかあった。テントは貴重品ではないが野ざらしにして使い捨てるほど安くもない。つまりまだ幾人かの冒険者が戻って来ていない事を意図していた。
屍竜の話がガセならそれはそれでいい。
しかし地下墓地への階段を降り始めた頃から感じていた嫌な空気は拭えない。人の往来が激しいダンジョンのそれではない、身体にまとわりつく湿気の様な質の悪い魔素は、それこそこういったダンジョンにはおあつらえ向きで奴等が好みそうな空気を充満させていた。
カシャッ。と石造りの狭い通路の奥から甲高い音が鳴る。固い物を石の床に擦り合わせる摩擦音。足元で鳴った音は大腿骨を通って身体全体に伝わる。幾重にもその音が重なってこちらに近づいてくる。
狭い通路の隙間を埋めるように列を成した無数のスケルトンが手に手に錆び付いた剣や盾を鳴らしながら現れた。
「もう駆け出し御用達のダンジョンって感じじゃねえな。お出迎えご苦労さん。」
返事は無い。その代わりに墓地の砂利にまみれてくすんだ動く人骨達は、
フリードの言葉に反応して一斉に下ろしていた武器を構えた。
「いいねえ、死して尚戦士か。
ならば押し通る…!!」
口の端を下品に吊り上げてフリードは拳を握り締めた。