忍者ブログ

天空大地の唄。

創造する、ファンタジー。 I sing for you 〜Black blade〜

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

8話

僅かな明かりがぼんやりと辺りを照らすのは死者の眠りを妨げんとするためだろうか。強い光は必要ない。

僅かな土の湿気と積年の埃が混じったカビ臭さ、無数に並ぶ朽ちた石碑だけが地下洞窟に広がる墓地に慰めの様にいつまでも残された。

もう随分と前にその役目を終えた地下墓地ではあるが、現世に繋りの無い無縁の死者達が数多く眠る。あるいは無念に彷徨う。

寂しさや恨みを糧に、或いは弄ばれてその魂と身体は繋ぎ止められ地下を彷徨う。いつか来る魂の解放だけを願う無念の想いに、重く楔を打つ禍禍しい魔素が死者に良からぬ耳打ちをし力を与え続けている。


しかしその触れれば気分を害するほどの鬱蒼とした空気を撥ね付ける、身勝手にも思える雑多とした幾つもの音。

通路には音が反響しては跳ね回る。


乾いた音が何度か響いて骨だけとなって華奢なスケルトンの身体が何体も折り重なって壁に叩きつけられた。

散乱する白骨の海。その中心で踊る渦の目を目指して波の様に湧く、湧く、湧く人骨の操り人形達。

白骨の戦士は手に手に
剣を、
斧を、
盾を、
槍を、
弓を。

かつてその身体の持ち主が愛した得物か、仮住まいの繰り手の都合で握らされた物なのか。それを汲み取るものは無い。

ただそれは、まるで黒い竜巻の様に跳ね回る渦の中心へ呑み込まれていく。


漆黒の戦士が現れる。


その場の白を基調とした全ての骸骨が一点、中心の黒ずくめの戦士目掛けて放つあらゆる殺意の軌道が、硬質な音を立ててぶつかり合って異様な音を立てた。

波の様に幾重にも覆い被さってはその波に黒の出で立ちを飲み込もうと、眩く燃える命の灯りを喰らわんと吸い寄せられる。

どれだけの衝撃に身を圧されようとも戦士の握る巨大な得物がその灯りを消すことを遮った。

押し潰されんばかりの重圧とのしかかる白骨の剣撃の音が伸びきった僅かな間を待ちわびるように。



それは動きだす。



刀身さえも黒く染め上げた身の丈程の片刃の大剣が

剣も、
斧も、
盾も、
槍も、
弓も、
骨も、

全てを巻き込んで横一閃に薙ぎ払われた。

洞窟の壁を破らんばかりの勢いで黒の一閃に弾き飛ばされた骸骨が壁や床にぶつかって花瓶のような音を立てて頭蓋を砕いた。


土と埃の臭いを胸一杯吸い込んでまだ自分が呼吸していると戦士は我が身の生を実感した。

横に大きく振り払われた右手の大剣の遠心力に逆らわず、ぐるりと一回転して得物を肩に担ぐ形で前に向き直ると、通路いっぱいに広がる骸骨の群れ目掛けて歩を踏み出す。

僅かに足元で動いた頭蓋を踏み砕き、次の一歩で放った前蹴りが、向かって来た先頭の骸骨の胴を突き放す。
ガシャガシャと互いの骨が折り重なって絡まって前一列の動きが止まると、そこにもう一閃。

力任せに黒の斬撃が降り下ろされた。袈裟懸けに振るった刃が頭蓋、鎖骨、肋骨、骨盤、大腿骨、遮る物は一つ残らず両断する。

例外がある、とするならば。

それは戦いの熱に引き寄せられる様に表れる強者の類いである。大刀が地面に傷を作る前にズシン、とした重圧に受け止められた。








PR